この夏、合気会六段であり、合気道および大東流合気柔術の高名な指導者であるエラール・ギヨーム先生が、ドイツのエンメンディンゲン、フランスのバイヨンヌとパリ、イギリスのケンブリッジを巡る特別なセミナーツアーを実施しました。このツアーの中心には、秘伝の伝書に保存されている根源技の探究と、それらが19世紀末から現代にかけてどのように進化してきたのかを深く掘り下げることが据えられていました。
多くの現代の大東流系統ではあまり重視されていない古典的な型の研究を通して、エラール先生は、特に合気道修行者に対し、技術的および哲学的な継続性について新たな視点を提供しました。セミナーでは、伝統と現代の身体力学をつなぎ、寛容さ、好奇心、そして合気道の生きた遺産へのより深い理解を育むことが奨励されました。
中心テーマ:ルーツと意義
2025年のセミナーシリーズは、「合気道と大東流合気柔術に共通する根源技の研究」という豊かなテーマによって統一されていました。これらの技術は特に「秘伝目録」と呼ばれる伝書に記録されており、エラール先生は実際にその文書を持参し、各地でのセミナー中に受講者に示しながら何度も言及しました。この文書が特に重要なのは、記載されている技の多くが現代の体系化されたカリキュラムに先行し、あるいはそれらとは別の枠組みに存在している点です。
これらの技法の中には、現代大東流においてすらあまり強調されないものも多く、特に武田時宗先生の体系に従う流派では顕著です。エラール先生によるこうした「見過ごされがちな技」の探求は、それらの実践的かつ歴史的な重要性を再評価する機会となりました。
各地のセミナー概要
文脈と歴史的背景を提供するために、エラール先生は各地のセミナー会場で講義を行い、伝書の構造と意義、そして後に合気道において体系化されることとなる技法の起源について紹介しました。これらの講義は、稽古に系譜と技術の進化という視座を与えるものであり、合気道の技術的な「DNA」がいかに大東流の源流と結びついているかを、参加者に明確に示す助けとなりました。
このアプローチは、合気道修行者にとって特に重要な意味を持ちます。なぜなら、この巻物に記された内容こそが、植芝盛平先生が武田惣角先生のもとで直接学んだ技法の多くを反映しているからです。実際、いくつかの点においては、合気道のカリキュラム構造の方が、現代の多くの大東流諸派よりも、武田惣角先生の原初的な指導体系に近いものとなっています。こうした根源技とその背後にある原理を再検討することで、エラール先生は合気道修行者に、自らの武道の系譜を深く理解するための独自の視点を提供しています。
セミナーを通じて、エラール先生はこれらの古典技法を、現代の身体運動科学における中心的概念——内部構造、重心の安定、効率的な力の伝達——と結び付けて説明しました。伝統と現代の身体性を橋渡しするこの視点は、古くから伝わる技術を、今日的な意味において再発見するための貴重な枠組みを提示しています。
ドイツ・エンメンディンゲン(6月20~22日)
ツアーは、エンメンディンゲンのカール・ヘルビング学校で始まり、地元の主催者により3日間にわたる充実したイベントが開催されました。毎日、武器(杖と木剣)稽古から始まり、その後、体術と内部の身体操作に焦点を当てた集中稽古が続きました。
ハイライトは土曜日の講義で、合気道の起源と大東流の伝書の構造について解説がなされ、畳上で行う稽古内容に深みを与えました。プロジェクターが道場の隣に設置され、理論説明と技の応用を行き来しながら学べる形式は、参加者に特に好評でした。
フランス・バイヨンヌ(6月27~29日)
過去10年にわたりエラール先生が継続的に指導を行ってきたバイヨンヌでは、古典的技術と構造の洗練に焦点を当てた稽古が行われ、参加者の学びの意欲を高める雰囲気が醸成されました。講義では、技術の系譜や伝承モデルに関する内容が紹介され、実技とのバランスの取れた学びの場となりました。
フランス・パリ(7月5日)
1日限りの集中セミナーは、パリの伝説的なスタッド・ピエール・ド・クーベルタンで開催されました。この会場は近代オリンピックの父であり、柔道の創始者・嘉納治五郎先生とも親交のあった人物でもあります。セミナーでは、伝書の重要な要素を午前と午後の2回に分けて紹介。短時間ながら、伝統技法と現代の身体力学の統合という共通テーマをしっかりと体現した内容でした。
イギリス・ケンブリッジ(7月12~13日)
最終地はケンブリッジ合気道場。ここでは、根源技術に基づくカリキュラムの中で、力の発生、重心の安定、即応性といったテーマをさらに発展させて探究しました。開幕時には多くの聴衆が参加した講義が行われ、武田惣角先生の技術と植芝盛平の技術との連続性と進化が、明確に示されました。
まとめ
ギヨーム・エラール先生による2025年のヨーロッパ・セミナーツアーは、合気道と大東流の「生きた伝統」へと立ち返る、貴重かつ一貫した旅となりました。植芝盛平が実際に学んだ源流技術へと参加者を再び導きました。
現代の身体力学的視点と結び付けることで、あまり知られていない技法に光を当て、合気道の土台が武田惣角先生の教えといかに深く結びついているかを明らかにしました。興味深いのは、現代の多くの大東流よりも、合気道のカリキュラム構造のほうが、武田惣角先生の原初的な指導法に近い点です。こうした視点は、合気道修行者にとって、自己の芸のルーツを理解する上で特に貴重なものです。
中でも印象的だったのは、「一教」などの技が19世紀末から今日にかけてどのように進化してきたのか、その変遷をたどる視点です。スタイルごとの差異が強調されがちな中で、実は共通点のほうが多いことに気づくことで、他流派への寛容さや好奇心が生まれ、より開かれた武道界を育むことに繋がるでしょう。
? 次回参加を希望される方へ
2025年のツアーに参加できなかった方は、エラール・ギヨーム師範の公式ウェブサイトやSNSをチェックしてください。毎年恒例となりつつあるヨーロッパツアー、2026年にもまた刺激的なシリーズが予定されています。